puni and…

フィクションについてはネタバレを含む

松山秀明, 2019, 『テレビ越しの東京史――戦後首都の遠視法』, 青土社.

◆概要

1.東京はテレビにより、日本の中心地としての地位を構築・維持しつづけてきた。

2.テレビは放送プログラムだけでなく、放送に必要な設備(放送局や電波塔)建設の過程で、東京の都市空間設計にも大きな影響を与えた。

3.1990年代中期以降、テレビの自作自演的戦略は視聴者層に刺さらなくなり、日本経済の停滞やインターネット技術の発展も相まって都市空間の形成・維持の有効なツールとは言いがたくなった。

 

◎よかった点

1.たんなるメディア研究で終わっていない

テレビをはじめとしたメディアを研究の題材に選ぶと、たいていはプログラムへの言及にとどまり、せいぜい制作物の時代背景やあるのかないのか分からないトリビアぽい各要素の連関で話は尽きてしまうが、本書は放送制度と地理空間へも目配りすることで、テレビ(番組)がマテリアルな諸物へも影響を与えて、その様相が時代を下るにつれて変化していく過程を説得的に記述、説明できている。

ルフェーブルを参照した「テレビによる東京(東京中心の放送局構造)/東京のなかのテレビ(都内の放送設備)/テレビのなかの東京(東京を題材とした放送プログラム)」というフレームワークも見事。

2.論旨の説得力

1で示した3つの枠組に則り、戦前から時代を下りながら東京オリンピック2020まで記述していくスタイル。各時代の放送プログラムの引用だけではあやうく社会反映論になってしまうところを、放送制度や放送設備の変遷も援用することで、確かにと思わせる。「メディア史的東京論」と銘打っているように、都市論としても価値のある考察となっている。

 

△気になった点

前項の2でも触れたが、説得力を有しているとはいえ「テレビのなかの東京」に関する論述だけをみると、解釈や断言がやや強いきらいはあるし、筆者も述べているように焼き増し感は否めない。博士論文をもとにしているため、そういう態度が必要だったのだろう。でも、もうちょっとそこらへんは調整してもよかったかもしれない。

各プログラムへの言及の量は、別に少なくないと思うし浅くなったところで問題ない。虫の眼と鳥の眼は両立できない。本書はよい後者を持ち続けていた。

 

◆所感

学部生や修士でメディア研究、文化研究(という形容がいいかは知らんが)したい人にとって、とてもよい参考になると思う。明瞭な枠組を確立すること、創作物だけでなく関連する領域で分析するものをひとつは持っておくこと、解釈のひとつであっても本文内では断言できるだけの論理的妥当性を備えておくこと……

都庁の移転とフジテレビの用地取得の顛末の話が、個人的にはとても面白かった。江戸東京博物館や水族館が、都庁を城東に持ってこられなかった「代償」だったってのは知らなかった。

 

www.seidosha.co.jp