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フィクションについてはネタバレを含む

『クレヨンしんちゃん 嵐を呼ぶ アッパレ! 戦国大合戦』(2002年)

 ABEMAで無料公開されていたので視聴。本上映時には観ていなかったので、恥ずかしながら初めてだった。

 

 戦の描写が正確と評されているが、私は国史学はまったく不得手なので妙に丁寧だなと思うほかなかった。以下、作品の中身についてメモ書き。

 

▼あらすじ

名も知らぬ和装の姫が池のほとりで空を眺める夢を見たしんのすけ。朝起きてみると、シロも含めた全員が同じ夢を見ていたという。

幼稚園からしんのすけが帰ると、シロが庭に穴を掘っていた。ただならぬ雰囲気に、埋めるようみさえに言いつけられたしんのすけも一緒に掘る。すると、箱に入った手紙を発見する。中身には天正2年にしんのすけが書いたという内容が入っていた。

その日の夢を思い返すしんのすけ。目をつむりふたたび開けると、戦国時代の合戦場にいた。しんのすけの言動がきっかけとなり、参戦していた井尻は命拾いして敵は退散。しんのすけは城主の提案もあり、井尻が預かることとなる。

井尻が密かに想いを寄せる城主の娘、廉は美人で名高く、他国の城主からも縁談の申し入れが多数あった。いっぽう、廉もまた幼いころから馴染みのある井尻を意識しており、彼が戦で死なないようにといつも祈っている。

廉の父の城主は領土を守るため、いったんは縁談に応じようとするがあとから合流したひろしから未来の実情を聞き、乱世はおろか武士も消えた後世に虚しさを感じ、縁談を断る。のちに縁談拒否を口実として、大名が国を襲いに来る。

野原家の協力と廉の祈りが届いたのか、他国の大名は蹴散らせたが、井尻は銃弾に斃れる。彼の死をひきずりつつ、野原一家は現代へ戻り物語は終わる。

 

▼所感

 廉姫が池のほとりで家紋に通じる雲を眺めるシーン*1から始まるのは、かなり印象的。のちに描かれるしんのすけの到着地点や廉姫と井尻のゆかりの地ということで、ちゃんとつながりを持った有意味なシーンではあるが、こういった静的な場面を冒頭に持ってくるのは、いやしくも児童向けにしてはかなり冒険していると思う。

 物語内容において、すべてが終わったあと、つまり井尻が死んだあとの風景と考えたら、かなり切ない。こういうシーンを冒頭に仕込んでおくと2周したくなる。

 

 見終わると野伏りと子供たちの小競り合いにかけている時間がかなり長いと感じる。子供が感情移入しやすくするための配慮だろうか。それにしてもギャグは少なめ。

 

 メインキャラが亡くなるのは衝撃的。wiki参照元の記事によると監督原恵一の提案だったそうだが、関係各所にはだいぶ反対されたらしい。でも、死なないよりは死んだほうが作品としては締まる(児童向けかどうかはともかく)。

 ひろしとみさえが当初の歴史の顛末を知っていそうながらも、それを口にせず態度で示す描写も見事。鑑賞者が感情移入するフックとなっている。へんにタイムパラドックスがどうこう気にしないのも、あくまで戦国時代のなかの出来事に集中できるのでいい。そう考えると、井尻が終盤謎の銃撃で亡くなるのも、本人がセリフで語っているが歴史の帳尻合わせとみなせうる。

 

 全体的に大人が見ても楽しめる内容になっているが、廉と井尻の相関や、各シーンのつながりは作品内で描写されており、因果の明示等、おさえるところはおさえている。評判がいいのもわかる。

*1:野原一家の見た夢という設定